Dream Dancer
私は普段から自分の音楽は全て聴き手に委ねることを基本にしてきました。
ですので、音楽の背景の物語などは明かさないようにしてきましたが
一つくらい良いかな、と思いまして公開します。
物語を読んだNo.24様がイラストを描いて下さいました。
物語自体も動画も簡素ではありますが紙芝居っぽいものと共に
No.24様の素晴らしい挿絵をお楽しみください。
「舞い上がる」
"手の舞、足の踏むところを知らず"
Story : Various Colors
Illustration : No.24 (舞い上がる)
Music : Various Colors (Dream Dancer)
― Dream Dancer ―
「夢の中なら飛べたのに」
とある国の王女さまはそんな言葉をよく口にする人でした。
とても踊るのが好きな彼女は毎日夢の中でも踊っている様で
「今日はワルツを踊った」「今日はパヴァーヌを踊った」と周囲に
夢の光景を話しては実際に踊りを披露する、そんな変わり者でした。
そんな変わり者の王女様は決まって最後には
「...夢の中なら飛べたのに...。」と言って踊りを終えます。
どうやら夢の中では踊りの締めくくりには空に舞い上がるラストを迎えるらしく、そのような夢を見ては踊りを披露する様を周囲は心配しつつも見守っていました。
なぜなら変わり者の王女様は夢遊病で、夜中に起き上がってはふらふらと歩きまわっているのをお付きの者が毎夜見つけてはベッドに帰すのが常でした。
「また夢の中で踊っていたようだ」
そう持ち場に戻っては仲間同士で
「きっと明日のお披露目はコート(ダンス)かも」
「だとすればお相手は王だろうさ」
といつもの様に雑談に興じるのでした。
そんな平和な国でしたが
ある時、国が侵略戦争に巻き込まれる事件が起こりました。
王も兵士たちも長い防衛戦にすっかり疲れ果てていましたが
変わらず毎日無邪気に踊りを見せてくれる王女だけが荒れ果てた心の拠り所でした。
ですがある夜、城が夜襲を受けました。
今までになかった突然の夜襲に犠牲を払いながらも何とか退けたのですが、周りの無事を確認していると王女が居ないことに気付きます。
皆が血相を変え捜索すると、王女は裏庭の一角で息絶えていました。
いつもなら王女は夢遊病の発作を起こしても、すぐにお付きの侍女や見張りの衛兵が見つけていましたが、今回ばかりは話が違いました。
戦火の混乱の中、いつの間にか王女は誰にも気づかれることなく
城の高い所まで彷徨って来てしまっていたようで
夢を見たまま目覚めることなく、そのまま高台から落下してしまったのでした。
王女を不慮の事故で無くした失意の中で
その場に居た誰もが心に浮べた言葉がありました。
「夢の中なら飛べたのに」
ー解説ー
ー変わり者の王女の病気ー
踊ることが好きでそれを周りに披露する姿、空飛ぶ夢や夢遊病など
幼い頃にまつわるものが王女には付いて回りますが
それもそのはず、この王女はまだ幼いからです。
中世ヨーロッパなどの婚姻は12~16歳ころで、
実際はもっと前に行われたことも一説ではあるようです。
ただ、夢遊病と思われていた王女の病気は
実は夢遊病とは似て非なるレム睡眠行動障害というものです。
これは中年や老齢の男性に多いですが、稀に幼少でもなるケースがあります。
(これは皆が知らない"変わり者"の1要素ですね)
夢遊病と違い、大きな衝撃(大声や揺さぶり)を加えれば覚醒しますが、
大事なお姫様を手荒に扱うものは居なかったのかもしれませんね。
(おそらく踊り終えて大人しくなるまで見守っていた)
翌日にその踊りを踊って見せているのは
夢遊病と違ってこれは夢を覚えていること、踊りを最後(の手前)まで踊れるのも、
普段から手荒にベッドに戻されたことが無い事が伺えます。
ー夢遊病でないなら何故、夜襲の際は起きなかったのか?ー
恐らくお城は要塞めいていた立地だったのかもしれません。
長い侵略戦に対し防衛できる程の立地や堅牢な設備が声が届かなかった原因になってしまったと思われます。
故に敵も夜襲を選択せざるを得なかったのかも知れません。
敵襲の声は王女を起こすのには遠かったことや
夜襲という見張りから仕留めるという不意を突かれた事によって、反応が遅れたのかもしれませんね(半鐘をならすなど)
ーその後の国はどうなったか?ー
問題を抱えていた幼い王女を心配こそすれ、
嫌うものは居なかったこと、戦乱でも癒しとなっていたことから想像すると
その失意の念は想像することすら出来ませんね...。
のちに国がどうなったかは......
ただ「Dream Dancer」は廃城で一人踊る亡霊の曲とだけ。
ー死後の王女ー
死んだことすら恐らく自覚していませんので、永遠に廃城で楽しく踊り続けることでしょう。
それでも無意識で悲しい踊りになってしまっているでしょうけど...。
ー挿絵「舞い上がる」と動画の演出ー
シルエットとNo.24様から頂戴した「舞い上がる」にて物語を飾らせて頂きました。
最初の王女様のカット、王様と踊るカット、ラストの全体、3回「舞い上がる」が登場しております。
2回目までは、特に一回目のカットではこの挿絵が「このような構図」であると思わなかったかなと思います。
挿絵は「夢」を表すのは王女様で「現実」を表すのが骸骨(死神)です。
・舞い上がる=気分が舞い上がる、空へと舞い上がる。
・王女様のエリア(足元)と骸骨の脳内(王冠)の対比
二人は手を取り合って仲睦まじく踊っています。王女様は足元──つまり踊ることに神経がいっているものの、お相手である骸骨は王なのか、それ以外の誰かなのか──いずれにしろ、被った王冠の中では馬に乗った兵士たちが戦っています。
・王女様のドレス
裾が骸骨の足と重なり、錯覚的に王女様の足がまるで骨であることを直感できるために、王女様は死んでいることを暗示しています。
・ドレスの中に三枚ある絵画
ドレスの中の王女様たちを正面にして眺めますと……。
①左の絵画は、"あの"髪を結い上げたお客様となったあとの、n回目の「うたかた」を描いております。
②右の絵画は、「Dream Dancer」が収録されているアルバム〈From the Inside〉のジャケットを描いております。
③真ん中のカーテンで隠れた大きな絵画は、くるっと"舞い上がった"状態、すなわち元の天地に戻していただきますと、両手を広げて空を飛んでいるかのような、王女様の"夢"が描かれています。
ー言葉遊びー
「夢の中なら飛べたのに」
最初と最後の言葉であり、この一言がこの物語の全てを表す言葉です。
最初の王女様のセリフは子供の願いで
「夢の中と同じ様に踊ってみたい」「夢の中ならもっと良かった(上手だった)のに」
と「夢」へ自分(現実)を向かわせたい意識が強くある感じのニュアンスにしております。
文字通り「夢中」という感じでしょうか。
楽しいこと(踊り)に夢中・夢の中、意識、自覚を失うこと(夢遊)の側。
対して最後のセリフは王や兵など大人の願いで
「夢だったらどんなに良かったか」「こんなことは夢であってほしい」という感じ。
「現実」へ向かう意識があり、「現実」を夢にしてしまいたい
「現実」に対し夢の都合の良い要素を引き込んでしまいたい。というニュアンスです。
(そのうちにその現実に対して逃避していくのでしょうけど...)
こちらの夢中は「現を抜かす(正気や正常な心の状態を失う)」という感じです。
二つの立場で共通しているキーワードは
「”夢中”であり”現を抜かす”でもある」という言葉遊びをしております。
「現(うつつ)」とは夢に対し目が覚めている事。また死に対しては生きている事です。
どちらも最後は現を抜かしてしまいましたね。
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